“イニシアティブ日本”で分かったフランス企業の取り組み! 復興の鍵は「安全対策」と「産業危機管理」

去る7月5日~7月8日まで、フランスから放射線防護関連企業や原子力エンジニアリング企業が来日した。震災後の復興において重要な安全対策・産業危機管理、そして日本の企業や消費者を支援することのできるノウハウや製品の提供を目的として、フランス企業振興機構/ユビフランスと、その日本事務所である在日フランス大使館企業振興部が「イニシアティブ日本」を立ち上げた。

このプランは3カ月に及ぶもので、原子力のリスク管理を中心に選ばれた10社による最初の来日ミッションが4月26日から28日にかけて行われ、続いて6月7日にはパリで日本の現状と各分野の状況を把握するためのセミナーが開催された。そうして今回、東京でフランス企業の来日ミッションが行われたのだが、この最後のミッションでは震災から3ヶ月後の日本のニーズに対応した製品・技術を提供するフランス企業20社が集結している。

この分野は放射線防護、土木インフラおよび顕在、産業・自然災害に対する予防措置と危機管理、環境、エネルギー、エレクトロニクスなど多岐にわたる。今回、その中でも画期的な5社をピックアップし、取材をした。

30年以上の経験を有するSRA SAVAC社「信頼を取り戻すために」

SRA SAVAC社は原子力聞き・設備の保守管理に携わる企業で、主に特殊環境における検査や洗浄を行っている。同社の原子力部門は150人で構成され、うち現場の作業者が100人、機器の設計エンジニアが10人おり、残りはその他業務のサポートをしている。同社は、蒸気発生器の洗浄分野では世界でも大手の企業で、現在までに3000を超える蒸気発生器を洗浄した実績がある。フランス電力公社に初めて画像・ビデオ映像を提供したサプライヤーでもある。同社は、スウェーデン、ベルギー、スペインで蒸気発生器(二次側)の保守管理を100%請負っている。

同社の営業担当責任者リオネル・カイヤ氏はいう。
「原子力の中のゴミや泥を取り除くにために、当社は水圧を利用しており自動化のシステムを採用しています。フィルターを通して水は循環する仕組みです」。

洗浄の様子
洗浄の様子
この分野では世界の第一人者と自負している同社は今まで3000件を超える実績もあり、設備のプロセスをつくる作業工具なども設計している。核の制御棒や核燃料を動かすこともできるが、この作業は非常に危険であり、モニターを見ながらロボットを使い慎重に作業をする。

「核納庫のプールの中に長いカーボンロッド(6m)、水の中でも使用できる放射性対応ロボットで、カメラはロシア製を使用しています」(リオネル・カイヤ氏)

同氏は、「インパクトのあった福島だったが、日本がパニックにならないのを見て非常に驚きました。東京電力も早い復旧に向けて技術のある企業に手伝ってもらえるよう周囲に頼むべきです」とのこと。
今回は日本における拡販も狙いのようだが、なにより「信頼を取り戻すためにも安全であることを示したい」としている。

世界60基の原子炉の設計開発に参加した実績を持つEgis INDUSTRIES

Egisグループの子会社であるEgis INDUSTRIES(エジス・インダストリーズ)は、土木工学調査を専門とし、OTHとSechaud Metzの合併により2006年に設立された欧州の大手エンジニアリング企業だ。専門分野は①設計(フィジビリティスタディ・プロジェクト事前調査)、②デジタル模型・プロジェクト全体の見積り調査、③詳細調査・土木工学計算と設計、④工事マネジメント・診断、⑤水処理と廃棄物処理、⑥都市計画――である。現在建設中の欧州型加圧軽水路4基を含み、世界60基の原子炉の設計開発に参加した経験を持つ。「燃料再処理工場」、「ウラン濃縮工場」、「都市整備マスタープラン」、「ITERプロジェクト」、「チェルノブイリ原発石棺」、「水処理、廃棄物処理」の耐震研究も行ってきた。

タンクの地震時の運動モデル
タンクの地震時の運動モデル
同社の営業担当責任者であるローラ・ギット氏は、「われわれは耐震が重要な大がかりなプロジェクトにおいて耐震研究を行っています。リスクのある建築物のために、①完成した要素の三次元モデル化、②流体と構造の相互作業のモデル化、③剥離問題の考慮、④スペクトルの計さん、⑤プッシュオーバー計算――など特別な計算方式を使用しています。汚染水の処理についても、グループ会社のEgis Eau(エジス・オー社)は、汚染排水の処理を専門とする実績と経験を兼ね備えており、排水は沈殿、上記濃縮、超ろ過、ナノまたは従来のイオン交換方式により処理されるようになっています。また、放射性物質を含む埃の飛散の抑制や流出水による汚染物質の運搬や、空気や水を浸透した植物の特定にも定評があります。強力かつ即効性のある除去方法と穏やかで段階的な効果のあるバイオなどの除去方法など難しいケースへの取り組みも豊富な原子力保全についての知識でカバーしています」と話す。

フランスに民生用の原子力が導入された1949年以来、フランスの原子力発電所のもの全てにかかわってきたという同社。現在フランスは第三世代の原子力を建設中であるが、同社は土木工学にかかわる設計をフランス、フィンランド、中国、イギリス(プロジェクト中)の4基とかかわっている。

チェルノブイリ原発石棺設計(構想)
チェルノブイリ原発石棺設計(構想)
環境問題に敏感になっているフランス。
「CO2の排出量が少ない原子力発電に限界があるとすれば事故です。フランスではASNと呼ばれている『原子力安全規制当局』、これが原子力産業に対して警察の役割を担っており、原子力産業界では恐れられています。なぜなら政治権力から独立した組織だからです」(ローラ・ギット氏)

現在、日本の緊急課題である土壌汚染だが、「放射性の廃棄物に関しては廃炉の問題でも必ず出て来きますので、地下にトンネルを掘る地層処分のための大きなプロジェクトがあります」とのこと。最後にローラ・ギット氏は「日本再建のために力になりたい」としめくくった。

世界トップクラスの防護具メーカー SPERIAN-HONEYWELL社

Honeywell Safety Productsは、危険な環境で動作・作業を行う方のために、頭から足先までカバーする個人防護具(以下PPE)のメーカーである。頭の防護やボディの防護、転落防護など、多様なタイプの産業にも適応できる防護ソリューションを提供している。PPE部門で50年以上の経験を積む同社のソリューションは世界中で数約万人の作業員に愛用されており、最先端のテクノロジーと豊富な品揃えでクオリティーの高いサービスを実現している。

同社のSamuel Ozil氏は防護服分野の専門家であるが、ISO8194の防護服も携わった。日本のJISにも取り入れられている。
Samuel Ozil氏は、「換気装置つきの防護服でわれわれは世界でトップクラスを誇ります。フランスの関係施設にはもちろんのこと、アメリカ、カナダ、インド、韓国、東欧など各国にも納入実績があり、全てのタイプの原子炉に適応しています」と話す。

防護服の用途は原子力関係だけではない。提供した防護服の中には、致死性の細菌に対して威力を発揮するものもある。同社の防護服は日本の感染症研究所にも納入実績がある。

「われわれはこのPPE分野において唯一の技術力を持っていると自負しています。累積販売数は200万個にもおよび、信頼に値する企業だと思っています。現場に適応したソリューションを提供し、ニーズに迅速に対応できます。今回、福島原発事故を受け、福島用に2着提供しました」(Samuel Ozil氏)

同氏に福島用に適した防護服はあるのか、と尋ねてみたところ、「今回福島用に開発した防護服を用意しました。福島は汚染のリスクが高かった。特にα線や建物外に付着した熱によるストレスを避けることも必要です。残骸が地上に転がっていて、歩き回っているときに汚染されないようにしたり、液体性の排出による汚染からも守れるようになっています。防護服には換気装置があって、ヨードなどをろ過する装置もあり、まさに福島に適した防護服です。紙性の防護服に比べると2万倍防護能力が高くできています」とのこと。

今回HONEYWELL東京事務所とタイアップし、現在、福島の状況に対応するべく日夜努力をしているという。
「HONETWELL社は個人を防護する世界のトップメーカーです。今回の震災事故のあと、緊急の対策チームを作りました。日本には多数の防護装置を提供しています。アメリカ、カナダからはマスク、その他の工場からは防護服、欧州からはグローブに手袋などをサポートしています。現在、日本の大手企業とコンタクトをとっています」(Samuel Ozil氏)

足元も完全防護
足元も完全防護
Samuel Ozil氏は最後に、「日本はフランスとの関係も深い。私は日本の産業界に連帯意識があります」と意気込みを見せた。





放射線防護を目的とした測定器や測量標の専門メーカー CARMEREC RADIATION PROTECTION

CARMEREC RADIATION PROTECTIONは、30年以上にわたり放射線防護を用途とした測定器や測量標の研究、開発、製造、検証を専門としており、各種放射線測定機器や信号機器、工事現場用測量標などを提案する。放射線防護分野以外でもニーズに合わせたカスタマイズや開発も行い、また放射線防護と並行して、航空機、自動車、原子力分野向けに非破壊検査用の測定器も開発している。

同社の全事業はISO9001-2008に合致している。R&D事業はフランスの研究開発省から研究開発税額控除制度の対象として認定されており、ラジオメーター「Dolphy」は、測定精度の高さと丈夫さが評価され、フランス国内のEDF(フランス電力)の施設全体の認証を得ている。この認証を受けたことによって、フランスの原子力発電所全体に製品を納入する契約が実現したのだ。ラジオメーター「Dolphy」はINRS(放射能防御・原子力安全人)/CTHIR(放射能防御機器認可センター)から、CEI-60846規格の認定を受けている。放射線量測定器「Neo」は、フランスの原子力発電所で規定測定を実施するために使われており、高いパフォーマンスを発揮している。

1秒以内に空気中の放射線要領の変化に反応するラジオメーター「Dolphy」
1秒以内に空気中の放射線要領の変化に反応するラジオメーター「Dolphy」
今回、フランス電力の仲介により来日が実現したという同社のJacques TUR氏。もちろん市場開拓にも余念がない。
「すでに数十の製品が日本で使われていますが、今回の来日に思うことは流通に関して明確にしたいということ。今回だけの単発に終わるのではなく、持続的に参入したいと考えています。また、技術要員を日本に駐在させることも必要になるでしょう。その他にも保守作業や測定器の調節を行ってくれるところを探しています」(Jacques TUR氏)

放射線の測定機器は線量計とは別のモノだという同氏は、「現在、線量計とラジオメーターと混同されることが多いのですが、線量計はある一定の吸収した放射性を計るものです。リアルタイムの放射性を計測するためのラジオメーターに比べ、線量計は過去のモノで測定します。現在、日本の児童生徒に線量計を持たせているようですが、被爆を防ぐという点では、全く意味がないことです。体内に取り込んだ放射性を計るよりも、予防が大切。被爆を避けるためにはラジオメーターを使用することをお奨めします。学校にラジオメーターがあればリアルタイムに測定できますので、放射性物質が強いときには、その場所を避けることができます」と話す。

無線で超軽量の小型監視システム「NEO」
無線で超軽量の小型監視システム「NEO」
現在、日本で放射性防護に感心を持つ企業が増加しているというJacques TUR氏だが、本格的に真剣な取り組みをしている企業を対象にしているので、やみくもに取引はしたくないそうだ。
「私どもの最終的な目標は、あらゆる手段を用いて皆さんに汚染を回避する方法を提供することです。今回の事故で、原発は安全ではないということを皆さんが意識してしまいました。また、放射性物質についての対応が不自然かつ信用性に欠けるため、自分の身を守るためにも自分で放射性物質を計りたいという需要が増えているようです」(Jacques TUR氏)





画期的な設計技術を持つSystems Developmento&Solutions

Systems Developmento&Solutions(以下SDS社)は、超小型高電圧コンバーター、高電圧電源、高圧高速整流のためのインパルス発生器、検知プローブのための電子部品・機器、上記機材の遠隔制御・操作システムを製造しているメーカーである。

CEA(フランス原子力・代替エネルギー庁)サクレー研究所からの技術移転により、SDS社は、放射線防御や分光測定に関する革新的なソリューションの開発、産業化、商業化に着手した。製品としては、ガンマ線の流量計の機能を持つスマートガンマプローブと、超小型ガンマ分光測定器が挙げられる。
「今回この二つの製品を販売するために日本に来ました。これらの製品を製造するメーカーの数は少ないですが、私どもの優位性はミニチュア化。微細なものをつくることができます」と話すのは同社のベルナール・レイボヴィッチ氏。今回の来日で手ごたえを感じたようだ。

「市場に流通している競合製品と差別化を図ることができるこれらの製品を初めて納入したのは、フランス企業のロボットメーカーでした。もう一つの用途はヘリコプター式の無人飛行隊で、フランスのシノンという廃炉の原子力発電所に使われたことがあります。マルセイユの消防隊にも使われました。放射能レベルの高いところにも耐えられるロボットや無人ヘリコプターでも半径10Km飛行が可能なヘリ、プローブはパラシュートを投下して遠距離測定するものもあります。ヘリを飛ばしてデータを回収するのです。今回の来日でコンタクトのとれた全ての企業に対して製品そのものとソリューションを提供することができました」(ベルナール・レイボヴィッチ氏)

同社が推奨する産業リスク対策製品の「SGPシリーズ スマートガンマプローブ」は、モニタリングされたゾーンで検出された放射性物質(セシウム相当)に関する情報を提供するスマートガンマプローブ。ガイガーミューラーセンサーと、自律機能に必要な全ての電子モジュールとで構成されている。ガイガーミューラーセンサーは、放射線から出る粒子と完全にイオン化するガス探知機。チューブ内に生じたイオン化回数(インパルスの数)を計る電子メーターにつながっている。この回数はその後放射線濃度に変換することが可能だ。一方の「超小型ガンマ分光測定器―MGPシリーズ」は、超小型のガンマ分光測定器。放射性核種識別装置(RID)のカテゴリーに属する製品で、放射線同位体を識別すべく、ガンマ放射線の拡散を、高い信頼度で測定するというもの。CZT探知機と、その自律機能に必要な全ての電子モジュールとで構成されている。SGPブロープと同じように、保管するモジュールとの組み合わせが可能(無人機、地上用ロボット、通信システム等)。

被災地は、ニュースで報道されているよりもまだまだ酷い状況だ。
汚染されたがれきの撤去など問題は山積し、原発作業者の劣悪な状況もさらなる改善が必要だと感じる。スピーディかつ安全な復旧作業には、海外からの技術支援も必要ではないだろうか。
放射性廃棄物の問題は日本だけの問題じゃないのだから―――――。

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