日進工具仙台工場が20周年! 「NS東北 微細・精密加工展示会2013」で見たものづくりへのこだわり

11月8日(金)、9日(土)の2日間、日進工具(社長=後藤弘治氏)が開発センター・仙台工場設立20周年を記念して、「NS東北 微細・精密加工展示会2013」を開催し、多くの来場者で賑わった。

思い起こせば今から20年前というと、ヨーロッパでは欧州連合(EU)が発足し、アメリカではビル・クリントンが大統領に就任した年である。バブル崩壊後の日本は、生き残りをかけた製造業が海外に生産拠点を移していき、まさに「失われた10年」という言葉の真っただ中でもあった。

日進工具はそんな時代を背景に仙台工場を立ち上げている。
海外へ生産拠点を移すのがトレンドとなりつつあった20年前、なぜ国内生産にこだわり、仙台に工場を立ち上げたのかを当時社長だった後藤勇会長に、今回の展示会への思いと微細加工へのこだわりについては後藤社長に、それぞれのお話を交えて「NS東北 微細・精密加工展示会2013」をレポートする。

独自の生産技術によりφ0.01のエンドミルを安定品質で生産

後藤弘治社長
後藤弘治社長
今回の展示会ではプライベートショーとしては珍しい入場料1000円が必要だった。
これは、「東日本大震災復興支援金」として「みちのく未来基金」へ寄附することになっている。

後藤社長はチャリティーの企画について、「この地で20年を迎えた記念に、なにか地域に貢献できることはないかと考えました。2011年に大震災が起きてしまった東北で多くの子ども達が親を亡くし、遺児となってしまった子供達の現実は、経済的なことから将来の夢を諦めなければならないといった厳しいことがあります。経済的な理由から学校に行きたくても行けなかったり、故郷を離れたりしなければならないという子供達が多いということは、将来、東北の地域に未来を担う人材が減少することになる。真の復興を考えると、震災に遭い親を亡くしてしまった子供達が夢を持ち続けるような土壌をつくることも重要で、これから育つ若者達に学ぶことを諦めて欲しくありません。夢を追い続けて貰うことは、将来の地域発展にもつながると考えています」と話す。

ユーザーである川島製作所のブース。精密微細加工の数々が並ぶ。
ユーザーである川島製作所のブース。精密微細加工の数々が並ぶ。
さて、日進工具といえば微細工具で有名だが、同社のこだわりのひとつに、“ユーザー目線に立ったものづくり”がある。これは切削工具をつくるだけでなく、使い方などを含めたトータル技術の提供をふまえ、製品・技術開発に注力しているという姿勢でもある。今回の展示会では、日進工具を愛用している企業のブースが並んでいた。
常にユーザーがつくる製品を意識していることが理解できる。

工場内の写真はNGなのが残念だが、同社では毎年、工作機械や測定機器などを導入している。記者は7年前にこの工場を訪ねているが、当時よりも遙かに設備が増強されていた。

ピカピカ加工ができる工具も同社の強み
ピカピカ加工ができる工具も同社の強み
ズラリと並ぶ設備で素材から工具設計、切削試験などによる評価を実施し、製品の信頼性を確保している同社だが、市販の工具研削盤は微細工具の生産において「全てが最適ではない」という理由から、小径工具向けの工具研削盤などを独自で開発している。そのマシンの名は「マサムネ」。日進工具のオリジナルマシンである。このような独自の生産技術により、φ0.01のエンドミルなどを安定品質で生産できる高い能力を発揮しているのだ。自社開発の「マサムネ」は同社の主力生産機として活躍している。

「精密な微細工具は世界の中で、どこでもつくれるものではなく、熾烈な国際競争力の中で、われわれは世界と戦っています。差別化するためには、自分たちで機械をつくっていくほかありません」(後藤社長)

国内生産にこだわったのは円高に負けない企業にするため。時流に流されない冷静な目も必要

2011年3月11日に起きた東北地方太平洋沖地震で震度6強の揺れに見舞われた仙台工場は被害を受けたが、幸いにして死傷者・行方不明者はなく、3月13日から復旧活動を開始した。3月28日から通常の勤務態勢に戻っているが、その翌月の4月7日に発生した余震では震度6弱を記録し、度重なる被害にあった。

ところが同社では、4月18日に全台稼働を開始、震災後60日でピークの90%以上の生産量まで回復している。これはもともと同社がこの仙台工場を設立する際に、地震対策を行っていたことが幸いしていた。加工機・重量設備は被害を最小にとどめるため、オリジナル自動停止装置(震度5対応)、測定機・計測器にはワイヤやバンドで固定し、工場のガラスには飛散防止フィルムを施してあったが、未曾有の大天災に見舞われた経験を活かして、今ではさらなる地震対策をしている。たとえば、レベルブロックから機械が落下しないよう、レベルブロックと一緒に機械本体と角材を固定するなど工夫や、貯水槽や節電対策用のエンジンコンプレッサー、そして備蓄品倉庫(飲料水、食料、生活用品、簡易トイレ、女性・子供用品など)の充実を図り、万全を期している。

後藤 勇 会長
後藤 勇 会長
さて、冒頭少し触れたが、今から20年前というと、製造業が海外に生産拠点を求めている時期でもあったが、その時期にあえて国内生産にこだわったのは何故か。その理由を当時社長だった後藤勇会長に尋ねてみた。後藤会長、43才の時の決断である。

「国内生産にこだわった理由は、強い経営基盤を構築したいという思いから。たしかに安価な人件費は魅力ですが、微細工具はどこでもつくれるものではなく、20年前、スキルがない海外で、われわれの望む工具を生産することは無理だと分かっていました。メーカーは製品の信頼性を失ったら終わりです。品質の高い製品を安定して世に送り、NSブランドの知名度を高めていくための基盤は日本でしかつくれないと思っていました。なにより、企業が発展していくためには、円高になっても対応できる強い体質が望ましい。海外に生産拠点をつくらないとしたのはそのためです」(後藤会長)

ものづくり日本大賞 東北経済産業局長賞を受賞

東北地区の微細精密加工に携わる方々の製品を一堂に展示し、NS最先端技術の情報提供とともに微細加工技術の発展を目指すというテーマのもと、開催された今回の展示会は大盛況のうちに終了した。何度か同社を取材しているが、印象に残ることは、いつの時代でもトレンドを読みつつも決して時代に翻弄されない強さがあることだ。同社が普遍のものとしているのは、「ユーザー目線に立ったものづくり」と一貫している。

なお、今年10月、「第5回ものづくり日本大賞」において、同社では「硬脆材の微細切削加工を可能とするシステムの構築」で、東北経済産業局長賞を受賞した。

これは、耐熱性、耐摩耗性に優れる耗弱材料の切削加工を可能にするダイヤ工具と微細加工陽CAD/CAMソフトを開発し、①高機能、多機能化する小型部品の製作に求められる高精度化、②小型化する形状の金型、部品製作が容易となることによるトータルコスト低減、③加工形状の自由度が増し、独創性の高い金型部品の製作を実現したものである。

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