「ものをつくる力は国力そのもの!」 上智大学 清水伸二教授に聞く

近年、ますますグローバル化は加速し、自動車産業はもちろんのこと、航空機産業、エネルギー産業、医療機器産業分野に対して革新的な進展が求められている。

製造現場でつくられる部品のクオリティは、それらをつくり出すために使用される工作機械の精度を超えることはない―――――。

これが工作機械を「マザーマシン」と呼ぶ所以である。

本年5月に発表された「工作機械産業ビジョン2020」の策定にあたり、座長を務めた上智大学理工学部 清水伸二教授は、「優秀な工作機械がなければ産業の発展は不可能であり、直接的に製造を担う基幹生産財である工作機械の果たす役割は極めて重要」と話す。

工作機械の第一人者である清水教授に「JIMTOF2012」を見学した感想や、「工作機械産業ビジョン2020」から見た工作機械の重要性と方向性についてお話を伺った。

小形で高性能なマシンが増加し、研削盤技術の徹底的な見直しが始まった

アジア最大級の工作機械専門見本市であるJIMTOFが、去る11月1日~11月6日までの6日間、東京ビッグサイトで開催され、多くの来場者で賑わった。50周年の節目を迎えた今回、各社の最新技術も華やかさを増して勢揃いをしていたが、清水教授に感想を尋ねてみると、「マシニングセンタでは機械の持っている幾何偏差を補正して、より高精度化するための技術開発成果が展示されるようになりました。お馴染みのロボドリルも本格的な小形マシニングセンタに変身していましたね。ロボドリルは月産5000台も生産されるとのことで、ボリュームゾーン機としての今後の動向が楽しみな機械です。ターニングセンタは高能率一色。高精度は当たり前で、長時間にわたり高能率加工を行うために、工具本数を増やすとともに、工作物交換時間を大幅に削減した機械が多く出展されました。研削盤は、ヨーロッパに対抗すべく徹底的な見直しが始まったという感じがしましたね。現状では高性能な研削盤は、ヨーロッパ勢に独占されている感がありますが、日本の特質を生かして、摺合せ技術を組込みやすい機種として日本メーカの見直しが始まったようです。日本の研削盤をさらに世界に広めて欲しいと感じています。現在、切削加工技術の進展に伴い、各種複雑形状の工具が必要となっており、工具研削盤のニーズが非常に高まっているといえます」とのこと。

さて、技術力ではヨーロッパと並び世界のトップを走っている日本だが、世界の製造業をリードしていくためにも、「いろいろな角度から工作機械産業の現状を検証することが必要」と清水教授はいう。そのためには工作機械の特質を知る必要がある。

「国・メーカ・ユーザが工作機械の特質をお互いに認識し合うことが求められます。工作機械はあらゆる機械をつくり出すまさに機械の“原点”であり産業の基盤ですが、高度なユーザニーズによって育てられ、成長するという側面があり、ユーザが成長しないと工作機械の成長は止まります。ユーザも値段だけで判断するのではなく、工作機械の価値をしっかり理解して欲しいと感じています。目先の100円を拾うようなユーザ体質をどこかで断ち切らなければなりませんが、これはユーザだけの責任ではないことを認識する必要があります。ユーザに自社の機械の価値を認めて頂ける仕組みと価値を理解できるようにユーザのレベルアップも図る必要があり、国主導のものづくり教育も必要になるでしょう」(清水教授)

工作機械産業は「正の多重スパイラルクリエータ」

工作機械工学を“ものづくり科学”の中核と位置づける清水教授。
「私は工作機械工学が“ものづくり科学”の中核だと思っています。工作機械を科学的に体系化した“工作機械工学”は、機械系の教育上、非常に重要な学問分野のひとつ。なぜならこの学問には、精密機械の設計原理とともに、あらゆる学問の実践的活用法が沢山詰まっているからです。工作機械を学ぶことにより、高度な工作機械を創出し、その工作機械を賢く使うことで、新たな加工技術を生み出すことが可能になります。それがまたさらなる高度な工作機械を創出するという“正の循環(スパイラル)”が生まれます。そこで鍵となるのは人材育成です。なぜなら工作機械はより多くの経験と技術、技能が必要なのですから」と、工作機械を“機械工学における最良の教材”として挙げている。

われわれの生活を豊かにする“もの”をつくる工作機械産業の発展は国力そのものの強化を意味する。
つまり工作機械は国をも動かす底力を秘めているのだ。

清水教授は、先述の工作機械の“正の循環”を『正の多重スパイラルクリエータ』と呼ぶ。
「ものをつくるためには工作機械が不可欠であり、初期投資も必要になる。顧客のニーズ(高能率・高品質など)が高まれば高度な工作機械の開発が進んでいく。これに合わせてユーザ側もさらに高度な加工受託ができるようになり、ユーザ自体が成長していくことにも繋がる。そうしてさらに高度な性能追求に結びついていく。つまり、各種要素技術の高度化や科学技術のイノベーションは常に工作機械と一体だということなのです」(清水教授)

さて、日本メーカが得意とする高度で優秀な機械づくりだが、ご承知のとおり、今後、新興国メーカの技術レベルも向上していくと予想されている。新興国メーカが低コストを謳えば日本メーカは技術やマーケティングの優位性を示しつつ、付加価値の高い製品で利益を追求したいところだが、近年は技術的優位だけでは世界を相手にグローバル展開を図っていくのが厳しくなってきた。サービスの向上や顧客のニーズにより合致した製品開発など、国際競争力に打ち勝つためには、あらゆる戦略が必要になってきたのだ。

国内製造業が持続的に成長していくためには国内で生産活動を継続していくことが望ましいとされているが、少子高齢化や、技能・技術の継承、雇用問題など解決しなければならない問題が山積されている。これらは製造業の自助努力だけでは解決できない問題でもあり、国内製造業の活性化のためにも民・官をあげてこれらの問題解決に向けた方策を考えなくてはならない。この点にについて清水教授は、「顧客ニーズを見える化し、それらに的確、かつ柔軟に応え、研究・開発を進める必要があります。高精度化はもちろん、高能率に繋がる高速化、複合化、知能化、そして環境・省エネ化など、さらなる日本固有の技術開発も必要でしょう。これらの技術課題に対して、強力な企業連携や産学連携などの体制を構築していく必要があります。短期的利益を過度に追求すればいずれツケが回ってくる。長期的な経営視点に立った技術・製品開発を進めるべき」としている。

「フォックスコンは凄まじい勢いで、OEMで供給するために、ありとあらゆるところから仕事を取っていますが、私はなぜ日本でフォックスコンのような会社が出現しないのか不思議に感じています。日本でもそういう会社が出てこないといけない。たとえば大田区の中小企業を巻き込んで、世界中から他国では出来ない仕事を請け負う仕組みが欲しいですね。中には“世界に出なくてはダメだ”という人もいるけれど、町工場のバックボーンはそれぞれで、企業規模も異なる。今は情報化時代なので、それを利用し、世界から仕事を取ってこれる仕組みが出来るはずです。日本には有能な人がいるのに、彼らを束ねてビジネス化するような企業経営者が現れない。フォックスコンのビジネス展開を羨むように黙って指を咥えて見ているだけのフシがありますね」(清水教授)

1大学あたり約4億円の研究資金を20校に配分する中国と、超先端加工システム(昭和61年~平成9年まで)以降大規模プロジェクトがない日本

ここで各国における工作機械関連研究開発の国の支援状況を「工作機械産業ビジョン2020」の報告時の資料からみてみると、日本と技術力を競っているEUは、工作機械メーカ、ユーザ、大学などの研究機関との共同研究が活発であり、政府が資金を支援している。例えば,次世代生産加工技術の研究開発である『NEXTプロジェクト』は、2005年~09年まで、欧州委員会の補助を受けて予算総額2000万€で23の研究開発機関・企業により実施されているし、アーヘン工科大学、カールスルーエ工科大学、測定機器メーカによる工作機械の構造変形測定に関する共同研究に対しては、ドイツの研究教育省が支援している。世界一の工作機械消費国である中国も工作機械産業育成を国の方針として明確に打ち出しており、指定した大企業や大学を中心として補助金を支給し、研究開発の促進を促している。ちなみに1大学あたり3千万元(約4億円)の研究資金を重点20校に配分するという力の入れようだ。

一方、日本はというと、『超先端加工システム(昭和61年~平成9年、予算規模約160億円)』以降、大規模プロジェクトがない。工作機械関連大学研究組織では、工作機械のテーマでは科学研究費が付かないのが現状のようで、最新の工作機械を設備することは困難な上、設備維持費も最近は削減傾向にあるという。ここで人材育成、特に教育界における課題が浮き彫りになってきている。

「現在、ものすごく現場のスキルが落ちている。驚いたことに分数計算すらできない大学生もいるというのも聞いたことがあります。そんな状態で現状優位にあるものづくり技術のレベルを保ち、さらに発展させることは不可能ではと危機感を感じています。本当にものをつくることが好きな子だっていますが、最近、製造現場では“大学を出ていないとダメだ”という風潮が出来ているようです。工業高校にも優秀な子がいっぱいいますし、そのような人材をもっと育てる必要があります。現場で機械を使う人たちが賢くなるためには、ものをつくることが好きだ、という根底の気持ちが大切で、そういった子供達が学んでいる工業高校の進学校化は大変な問題です。ものづくりが心底好きな若者が工業高校で徹底したものづくり教育を受けて、成長し、各社の現場で活躍できる人材となるような仕組みが必要です。このように、次世代のものづくり現場を担う若者の教育環境の整備も重要課題でしょうね。最近は簡単な工具もいじれない若者が増え、スパナも知らない工学系の学生もいるくらいですからね。ドライバーって運転手ですか? みたいな(笑)」(清水教授)

ものをつくることは、国力強化そのもの。
実質的には、技術教育が教育から閉め出されているなど、ものづくり産業の社会的存在理由と重要度が一般社会において認識されにくい風潮にある日本の現状に危機感を感じざるを得ない。

国ベースでの機械工学教育カリキュラムの徹底見直しを訴えている清水教授は、「未来のものづくりを担う子供達に自由な発想と多様性を認める教育環境を与えるとともに、もっと、ものづくりの楽しさ、魅力を身近に感じさせる教育へシフトすることで、個性的な製品コンセプトを創造する力が育っていく。子供の頃からものづくりに親しむ環境づくりが必要だ」としめくくった。