地政学リスクが全てを曇らせる! 現場レベルではすでに異変

 工作機械・切削工具・周辺機器類は底堅く動いているのにもかかわらず、地政学リスクが全てを曇らせる。本業以外で足を取られるこのもどかしさったら!

 中東情勢の緊迫化が、日本だけでなく世界の製造現場にジワジワ影を落としているのは皆さんご承知の通り。現時点では「直接的な影響は出ていない。」とする企業がある一方で、加工現場レベルでは、すでに〝異変〟が起きている。

 潤滑油や切削油といった油脂類に加え、ビニール手袋や、塩ビ管など、石油由来製品の入手が難しくなっている。「従来ルートでは買えない」「在庫を確保したい」という声が増加し、需給ひっ迫に加え、〝買い占め〟を疑う声も囁かれている。

 加えて製造現場では、もうひとつ、中東情勢とは別軸のリスクが進行している。深刻なのはタングステン価格の上昇と供給不安が超硬工具の入手を直撃していることだろう。現在、中間材料のAPT(パラタングステン酸アンモニウム)の国際価格は、中国の輸出規制前(2025年2月)と比べてとうとう10倍水準に達したとの見方もあり、血の気が引くほど現場の衝撃は大きい。タングステンはボルトやナットといった基礎部品から、切削工具、医療機器、金型などに至るまで幅広く使われる基幹材料であり、その影響は製造業全体に波及しかねない。

 さらに見逃せないのが、タングステンが戦略物資としての側面を持っている点だ。タングステンは政府の備蓄対象でもあるが、その詳細は公表されていない。供給不安時の〝安全弁〟になる可能性とともに、「どこまで頼れるか分からない。」という不透明さが残るが、タングステンは防衛や先端産業とも関わりが深い材料である。供給がひっ迫した局面では、民生用途への供給が後回しになるのではないかという懸念が出るのも無理はない。

 一部の切削工具メーカーは、リサイクルや新たな調達ルートを強化したり、タングステンを2~3年分備蓄したりと、足元の供給不安にも一定の余力を持っている。一方で、中小・零細の現場では、必要な工具や油が確保できず、「このままでは受注があってもモノができなくなる!」との切実な声が聞かれた。資材ひっ迫は、単なるコスト問題にとどまらず、製造そのものを止めかねない局面に入りつつあるのだ

 こうした状況に追い打ちをかけるのが、物流の不確実性だ。中東情勢を背景とした海上輸送の停滞や停船が長期化すれば、船上やコンテナ内に留め置かれた機械製品や部品が高温多湿や塩分を含む環境にさらされ、防錆処理を施していても腐食が進むリスクがなきにしもあらず。遅延だけでなく、品質そのものが揺らぐ事態になりかねないのだ。

 さらに地政学リスクの影響は思わぬところにも及び始めている。紙の供給にも不安が出始め、企業のパンフレットやカタログ用途は抑制され、トイレットペーパーなど生活必需品向けが優先される可能性が出てきたという声も出始めている。今年はJIMTOF開催年にあたるので、情報発信すら制約を受けかねぬ可能性もチラついてきたとなると非常に悩ましい。

 こうした問題は、もはや企業努力で吸収できる水準を超えつつある。価格転嫁は避けられないという空気が広がるなかで、最も打撃を受けるのが町工場だ。現場からは第一次オイルショックに匹敵、あるいはそれ以上、さらにはリーマン・ショックを上回るダメージになりかねないとの懸念が聞かれる。

 にもかかわらず、国際政治は読めない。とりわけドナルド・トランプ氏の発言をはじめ、強気の見通しが示されたかと思えば、現実はそう簡単には動かない。その振れ幅の大きさが、企業の判断を狂わせる。期待しては裏切られるという展開に、現場の神経は確実にすり減っている。先を読むことが前提だった製造業にとって、この“不確実性”が最大のリスクだ。

 代替調達、リサイクルの徹底、工程の見直しなど、その積み重ねで、日本の製造業は幾度も危機を越えてきたはずだが、今回は様相が違う。エネルギー、資源、物流が同時に揺らいでいる。もはや「価格」ではない。「手に入るかどうか」だ。もし、供給プロセスで目詰まりを起こしているのであれば早期解消とともに、地政学リスクの一刻も早い払拭を願うばかりだ。

 

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