精密機械好きにはたまらない! 世界最高峰の時計師が東京・渋谷に集結 ~国内初「時の技巧展」~
厳重な警備体制の中、技術と思想が凝縮された美しさを披露
実機が展示されている会場内は厳重な警備体制のもと、世界的に高い評価を博している「LEDERER」、「Pagès」、「Grand Seiko」、「Credor」、「Hajime Asaoka Tokyo Japan」、「Takano」、「Kurono Tokyo」、「Ōtsuka Lōtec」の8ブランドが勢揃いしており、来場者の多くはカメラやスマホを向け、美しい時計の姿を捉えようとしていた。
作品展示における技術的な配慮にも注目したい。浅岡氏は時計師であると同時にデザイナーとしての視点から、時計の仕上げや立体感を正確に伝えるための照明にも注力。一般的に用いられるスポット照明について「時計撮影にとっては最悪」と指摘し、反射や影を抑えられる面光源を採用していた。通常のディスプレイケースでは実現が難しいことから、あえて照明を内蔵しないケースを用意し、ケース上部にディフューザーを搭載、光を均一に拡散させることで、ケースや針、仕上げ面の細部まで観察でき、撮影しやすい環境を整えていたのだ。展示手法そのものにも、精密機械である腕時計を正しく伝えようとする技術者としての思いが伝わる。
さて、上記の写真にもあるレデラー氏の「セントラルインパルスクロノメーターCIC44 トリプルサーティファイドクロノメーター」は、ジュネーブ、ブザンソン、グラスヒュッテの3天文台での精度に合格しており、優れた精密時計性能をもった時計に授与されるクロノメトリー賞を受賞している。独立時計師アカデミーには1985年に会員となっている大ベテランであり、もう、ここまでくると、正確さを目的に生まれた時計の機構そのものが芸術品だ。
肉眼では気付かぬ部分に完成度を高めた痕跡あり!
「第1回 ルイ・ヴィトン ウォッチプライズ」最優秀賞を受賞したパジェス氏。同賞は、ルイ・ヴィトンがクリエイティブな才能や卓越した匠の技、そして高い創造性を讃たえ、職人や芸術家、起業家が独立系ウォッチメーカーとして活躍することを奨励する目的で設立されたものだ。
ハイブランドメゾンが次代の独立時計師を本気で育成するという取り組みにも驚かされたが、パジェス氏が第1回最優秀賞の受賞者であるという事実は、技術と創造性が国際的に高く評価された確かな証しでもある。そんなパジェス氏による時計の磨き工程を間近で拝見することができ、その緻密な手作業に多くの来場者が見入っていた。
特に印象的だったのは、極めて細かな部品の仕上げ加工に特殊な木が用いられていた点だ。面取り仕上げの最終工程で使われていたのは〝ジャンシャン〟というスイスに自生する木で、高度1000メートル以上の地域でしか採取できないという。この木は秋から冬にかけて木が乾燥した時期に採取され、その後、数週間から数ヶ月にわたりアトリエでさらに乾燥させ、十分に水分を抜いた後、中央部を切り出して〝磨き用工具〟として用いるのだ。パジェス氏はその理由について、「周囲は非常に硬く、内部は柔らかいという木の特性があり、磨き作業に非常に適している」と説明してくれた。素材の性質を知り尽くし、選び抜かれた道具からも時計師ならではの緻密なモノをつくる工程がうかがえた。

パジェス氏は現在も、自宅兼アトリエにおいて、手作業にこだわったウォッチメイキングを続けている。そこには工程一つひとつを自らの手で確認し、最終的な完成度を高めることを最重要とする明確な意志があるのだろう。
なお、ルイ・ヴィトン ウォッチプライズの専門委員会は、審査を担う国際的な組織で、浅岡氏はそのメンバーの一人である。


