日工会 飯村会長 2021年の見通しを示す

 日本工作機械工業会(会長=飯村幸生氏)が、このほど同会員向け年頭所感で2021年の見通しを示した。概要は以下のとおり。

2020年の内外情勢・受注状況

 2020年は米中対立の激化や世界的な新型コロナウイルスの感染拡大によって、国際情勢は、政治・経済両面にわたり極めて厳しくかつ不確実な様相を呈した一年となりました。世界経済は、年前半はリーマンショックを上回るインパクトの不況との見方がされておりましたが、世界各国が自国の感染対策に取り組む中、4-6月期を底に徐々に回復に向かい、その中で中国ではインフラ投資や半導体関連の他、自動車などの設備投資が比較的早期に立ち上がりました。一方、欧米・日本の設備投資は緩やかな持ち直しの動きが続き、年初の想定を大きく下回る水準で推移しました。この結果、2020年の受注総額は、2010年以来10年ぶりに1兆円を下回る水準に止まったと見込まれます。

 このような状況の中、当会ではオンラインを活用して委員会活動やイベント等の主要事業を進めました。昨年11月に開催したJIMTOF2020 Onlineは、WEB開催として初の試みとなりましたが、世界9カ国・地域から約400社に出展頂き、日本が誇る世界最先端の工作機械技術・製品を世界に向けて発信致しました。学生諸君に工作機械産業の魅力を伝える工作機械トップセミナーをオンラインで開催したほか、時流に沿った講演も併催し、参加された多くの方からご好評を得ました。

2021年の受注見通し

 2021年の工作機械市場を展望致しますと、新型コロナウイルス感染症や各国対立による通商や安全保障面の不安が引き続き足かせとなる可能性があるものの、旺盛な需要を背景に、中国では幅広い業種での好況が継続するほか、新政権による経済政策の効果が期待される日米をはじめ、欧州やインド等でも追随して景況改善が進むと思われます。業種別ではデータセンター増設やテレワークの普及、巣ごもり需要、次世代携帯端末の製造等が追い風となって半導体製造装置関連需要が高水準で推移し、また新車販売の回復を受けてCASEやMaaSへの対応等多様なテーマを抱える自動車関連需要も、外需を中心に回復が進むと期待されます。

 以上を総合的に勘案致しまして、私と致しましては、2021年の工作機械受注額は総額で1兆2,000億円(内需:4,500億円、外需:7,500億円)になるものと見通しています。

工作機械業界を取り巻く環境変化

 社会・経済が不確実性を内在している状況にあっても、製造業のイノベーションは着実に進んでおります。製造業の人手不足への対応や生産性向上のため、ロボットや周辺機器との連携が進み自動化技術が進化しております。5Gの普及に伴い高速・大容量通信により多数機器の同時接続が普及していくと見込まれます。また、コロナ禍でデジタルトランスフォーメーション(DX)が加速し、カスタマートランスフォーメーション(CX)も起きていると考えられます。地球環境問題への対応から、全世界的に2050年カーボンニュートラルに向けた取り組みが進められており、自動車産業では電動化に拍車がかかっております。一方で、環境に関する規制も強化されており、ライフ・サイクル・アセスメントやカーボンフットプリントへの対応が求められております。

 工作機械業界を巡る競争軸は、加工精度や速度、剛性などの単体の性能的品質から、ユーザビリティの向上、工程の集約化、自動化、生産体制の構築など、生産設備全体のエンジニアリング提案力に変化しつつあります。工作機械業界は、IoT・AIを活用したスマート・マニュファクチャリング技術、三次元積層造形技術、少子高齢化時代に適応した自動化技術との融合を進化させるなど、製造業のイノベーションに対応して需要開拓していかねばなりません。日本の工作機械産業はこれらの急速な時代の変化に柔軟に対処し、世界の製造業の発展に貢献して参ります。

 新型コロナウイルス感染症は、既存の社会秩序やグローバル経済のみならず、人と人との関わり方、生活様式、価値観などにも大きな影響を与える可能性があり、世界は新たな枠組みに向かっていると言えます。業界各社にとって、本年こそ真の忍耐力が試される局面、『ありたい姿』に向けてなすべきことをやり遂げる正念場、との認識を持ち、経営基盤強化への取り組みを進めて頂きたいと存じます。

2021年の日工会活動

 当会は、本年12月1日に創立70周年を迎えます。2012年に「工作機械産業ビジョン2020」を取り纏めました。その中で、中長期的視点から我が国工作機械産業が対処すべき四つの課題として、①JIMTOFの求心力の強化、②産学官連携の強化、③標準化戦略の強化、④人材の確保・周知策の強化、これら普遍的ともいえる四つの課題が指摘されました。本年は、市場、経営、技術、人材の4分野での検討を通じ、業界一丸となって2020年代の業界戦略となる「工作機械産業ビジョン2030(仮称)」を策定し、併せて「70周年誌」の編纂作業を進めて参ります。また、委員会活動が中心となって、当業界の関心事項をはじめ、業界に共通する付加価値の高い情報の発信、及び会員間の共有領域の拡大に極力努めて参ります。

 関係各位には当工業会の事業に対する一層のご理解とご協力をお願い申し上げます。

 本年が皆様にとって更なる飛躍の年となることを祈念致しまして、年頭のご挨拶とさせて頂きます。
 

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