【最新加工技術】三菱マテリアル 自動盤加工向け工具『MS9025』が満を持して登場! その舞台裏を拝見! 

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 加工現場の市場ニーズに応えるべく、日々奮闘している三菱マテリアル・加工事業カンパニー。近年、難削材の増加と高い加工精度が要求されるケースが増えていることを受け、同社では、小物高精度加工向けインサート材種『MS9025』の開発を行っていたが、この製品開発が最終段階に入り、自動盤加工に適したインサートの市場投入を行っていく姿勢を打ち出した。一般的に自動盤といえば、困るのは、〝切りくず処理〟だが、この問題をクリアする新しい技術に〝振動切削〟による切りくず処理の向上が挙げられる。同社は兼ねてより、従来の加工方法は基より振動切削を使用した条件下でも最適なインサート材種を模索していた。なぜならこの分野は、どの工具メーカーも未開発だったからである。

 営業企画部が捉えた市場の背景と、それに応える開発本部の精鋭たち。振動切削に対応し、安定した性能を発揮する最新工具が満を持して今、市場投入される―――。


着目したのは様々なトラブルを抱えている端面及び外径加工向け

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徹底した感選択策を実施

 「皆さま、ご安全に!」
 
 ここは三菱マテリアル 筑波製作所内の一室。小物高精度部品旋削加工用PVDコーテッド超硬材種『MS9025』の開発が最終段階を迎え、この製品に携わった営業本部・営業企画部と開発本部がテーブルに着いた。今回は新型コロナウイルス感染予防のため、マスク着用、密禁止、テーブルには飛沫感染を防ぐためのシートが張られ、徹底した感染対策がなされた中での性能確認となった。

 まず、営業本部・営業企画部の江波幸治部長補佐(以下江波部長補佐)が、現在、注力している自動盤加工向けの工具拡充の説明をした。

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満を持して市場投入される「MS9025」のカタログ表紙

 「当社は現在、主軸移動形のツーリングから考える新製品拡充を目指している段階です。例えば、自動盤の場合は必ず最初の工程に入ってくるドリル加工が重要になります。こちらに関しては、先の『DLE』、もしくは自動盤用ドリル『DWAE』を新製品として昨年度末に市場投入を行いました。ユーザー様からの評価も上々であり、この分野の拡充は完了しています。

 続いて我々が市場を見据えて投入すべき新製品は、ドリルなどの次工程であるフェーシング(端面)加工ならびに外径加工に移っていきます。よって次のターゲットとして着目したのは、この部分です。」と、フェーシング(端面)加工と外径加工を強調した。

 ちなみに自動盤の工程は、この後にクロス穴加工や後挽き加工、溝入れ、突切り加工という順番で進んでいくが、今回は、フェーシング(端面)、外径加工のための製品拡充をピンポイントで狙ったようだ。

 主軸移動形に適したインサートを市場に!

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工具のチェックをする江波部長補佐

 バー材から、細長いワークを加工していく場合、〝主軸固定形〟で加工していくと、たわんでいく。段付きのワークやさらに細い系のワークだと、たわみ量がさらに大きくなってしまう。江波部長補佐は、「一方、自動盤加工でよく見られる主軸移動型(別名ピーターマンタイプ)は材料の振れ止めの役割をするガイドブッシュと刃物位置が常に一定となります。X方向のみ刃物が動く形になりますので、細長いワークを加工しても精度良く加工できます。したがって高い精度が求められる加工では主軸移動型で加工するケースが非常に多くあり、今回、この主軸移動型で安定した性能を発揮すべく自動盤の高精度加工に適したインサートを市場に投入していきます。」と強い意気込みを示した。それもそのはず、江波部長補佐は、これまでにユーザーでの自動盤に関わる生産技術を経験し、その後はスモールツール市場にて技サ活動を他社で経験してきたなど、ギョーカイで〝自動盤のヘンタイ〟と呼ばれるほど、この分野において非常に強い執着心と、それによって蓄積された豊富な知識を持つ人物なのだ。

200720top4 江波部長補佐は、リサーチした市場のニーズおよび技術トレンドについてさらに続けた。それによると、① 難削材の増加(背景にステンレス鋼ならびに耐熱合金鋼加工が増えている)。② ワーク品位の向上(特に日本のユーザーでは、高い加工精度を要求されているケースが非常に増えてきている)。③ 新加工技術(一般的に自動盤は切りくず処理に困るケースが多く、ここ数年、振動切削による切りくず処理の向上を目指しているユーザーが増えた)。―――とのことだった。

 特に振動切削の観点から市場を見渡すと、最適なインサート材種について、なんと、各種工具メーカーではまだ未開発だったとのことで、「この振動切削の条件から最適なインサート材種を模索していくことがわれわれには必要だったのです!」と、主張した。ありそうでないところを突いてくるとは、さすが自動盤のヘンタイと一目置かれるだけあって、目の付け所が違う!

スモールツールインサートの市場変化

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伊藤さん

 次に、江波部長補佐の部下にあたる営業企画部の伊藤詩穂子さんが、〝スモールインサート〟の市場調査について次のように説明をした。

 「現在の国内市場におけるスモールツールのシェアについてですが、A社、B社、そして、その他に当社が入っています。市場の3分の2が、このA社、B社が占めている状況ですので、われわれも市場において大きなインパクトのある製品の投入が不可欠であると考えます」。

 スクリーンをみながら、しっかりとした口調で話す伊藤さん。ターゲットの市場、すなわち〝標的〟のニーズや顧客満足を的確に捉えることはマーケティング戦略には必要不可欠。ぬかりはない。

 伊藤さんによると、同社が考えるターゲットの市場および製品分野について自動車産業や医療向け部品の他に、身近な製品としてスマートフォンを始めとした電子機器、半導体部品、生活機器でなどの装置を挙げた。

 「ここに挙げた部品は、一般的にステンレスをはじめとした難削材が挙げられます。また、ステンレスよりも切削が難しい電磁ステンレスの他に、一部では専用材料も使われ始めており、加工の問題点が多いことが特長となっております。」(伊藤さん)

200720top6 さて、自動車といえば、現在、電動化に伴う部品の変化があるが、同社の説明によると、電動化によりモーター関連部品が増え、このモーター等を各種制御するにはアクチュエーターが必要になる。このアクチュエーター部品の増加が市場にあると睨んでいるようだ。モーター本体の他に、モーターケース、CPUケースや冷却装置など側(がわ)の加工へ多く着目されるが、一方で内蔵物と呼ばれる中に隠れている部品として、こうしたインジェクターやソレノイドバルブ、その他電動化部品の増加もあると説明した。

 被削材の変化についても、SUS303から鉛レス化に進み、最近は、高強度を有したステンレス鋼や、電磁特性に優れた電磁ステンレス鋼も増えているとのこと。加工内容についても簡単なシャフト形状から、より複雑高精度化しているという。それらに対して、切削工具に求められる性能は、ズバリ! 〝寿命と耐欠損対策の両立〟を挙げていた。

 問題は、加工の寸法変化をどうやって抑えていくか――――だ。

新技術の適応に一石を投じた営業企画部

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振動切削の課題は一般的な切削加工と比べ、加工中に振動が生じることによる刃先負荷や加工硬化を起こした部位への衝撃で刃先にチッピングが起きやすいことだという

 摩耗抑制による寸法の安定化対策について、江波部長補佐は、「電動化部品は、ワークの公差レンジで10ミクロン以下というのが当たり前です。よって、この高精度な部品加工する上でも、摩耗の抑制というのが1つ重要なポイントになってくる。」と説明した。

 また、チッピングの抑制についても、「チッピングを起こすと突発的な寸法変化が起こる。この寸法変化により、自動盤の加工は連続してワークを削り出す加工になるので、不良が垂れ流しになってしまう。」と話した。能率の高い連続加工は、一歩間違えば、不良がダダ漏れになってしまうこともありうるのだ。想像しただけでも恐ろしい。

 自動盤加工でよく挙げられる問題点は、切りくずが悪さをして傷が付いてしまう場合もあれば、むしれによって寸法ダメージを受けてしまうことだ。バー材から加工するので、突切り工程で発生した中心部に残っているへそ状に残るバリは厄介だし、加工硬化を起こした材料面や傷が入っている材料面に、端面加工のインサートが入ってしまうことは避けたい。また、この端面加工を行う際には、どうしても中心付近になると周速が低下してくることにより、インサートの負荷が非常に増してくるという。

 そこで、難削化が進む中、高品質かつ高能率を両立させるための新たな技術といえば、〝振動切削〟が挙げられる。振動切削の優位性は、切りくず処理対策だ。今回は、シチズンマシナリーのLFVテクノロジーを搭載した機械で、低周波振動切削を推奨していた。最大の特長は、刃物がワークとくっついたり離れたりすることによって、切りくずを細かく分断していくことだ。

 こうした最新の加工技術に適したインサートは、未知数だと踏まえ、新たな一石を投じた営業企画部。課題は、①耐摩耗性の向上、②耐欠損性の向上、③加工精度対策、④新加工技術の適応―――だ。

 さぁ、この要求に対して、開発部隊はどう応えたか――――。

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