三井精機工業 奥田社長に聞く ~究極の精度を求めて 加工現場への貢献~

 究極の精度を求めて―――――――。
 
 このキャッチコピーを聞くと、三井精機工業(社長=奥田哲司氏 本社:埼玉県比企郡川島町八幡 6-13)を思い浮かべる方も多いだろう。

 最先端の技術に加え、徹底した環境整備のもと、各部門で高性能の製品を開発することにより高い評価を博している同社は、1928年当時、外国に依存していた精密測定機器や精密工作機械を国内で生産する目的で設立された歴史ある企業だ。

 現在は事業を「工作機械」「コンプレッサ」の2部門で構成している。
 
 今回は同社の工作機械部門にスポットを当て、工場内を案内してもらい奥田社長にお話しを伺った。

目の肥えたユーザーと国内市場の重要性

奥田社長キモ入りのPJ
奥田社長キモ入りのPJ
 コンマ数マイクロメートルという気の遠くなるような精度で前例の無い精密加工に挑もうとすると、マザーマシンには究極の精度が求められる。そのために三井精機が行っていることは、最高の技術と設備、そして技能の追求である――――。

 これは、高精度工作機械の真髄を表現した同社のプロモーションビデオにもあった台詞だが、 もともと自動車メーカーの技術者だった奥田社長は、“製造現場で必要とされている機械はどんなものなのか”をよく知っている。昨年のJIMTOFで発表された奥田社長キモ入りの”Precision Profile Center”(これは奥田社長自ら名付けた)『PJ812』は、金型、試作部品、光学関連部品、航空宇宙関連部品、医療機器関連などの高精度加工を実現した静的精度、動的精度を徹底して追求したマシンだ。ジグボーラーの高精度位置決めと高品位形状加工を実現する“究極のマザーマシン”として大きな注目を浴びた。

 奥田社長は、「弊社の特長はお客様のご要望に合わせてカスタマイズできることです。数をつくっていないということもあり、その分、お客様仕様の機械を丁寧につくり上げていく。三井精機のブランド価値というのは、“三井の機械が欲しい”、“三井の機械があれば安心だ”と、お客様が惚れ込んでくれるところにある。だからこそお客様に使って喜ばれるような機械をリサーチし、開発していくことが重要だと思っています」と話す。

 工作機械といえばモノをつくるモト、つまり各産業を下支えする重要な基礎産業である。熾烈な国際競争力にさらされている中で、海外市場についての重要度を尋ねると、意外にも「国内が重要です」と口にした。その理由について、「アメリカもアジアも大切なマーケットですが、日本のものづくりに対して、われわれはもっと貢献していかなければならないという思いが強い。国内で使って頂けない日本のものは、海外へ持って行ったとしても使って頂けないでしょう。われわれの機械は日本の目の肥えたお客様にしっかり使って頂けるというのが大前提です。車でもそうですが、日本のマーケットは厳しい。道も良いし、ガソリンも質が良い、エンジンオイルも質が良い、全てにおいて良い条件が揃っている。良い製品が当たり前になっているので、製品に対して厳しい目を持っているのです。したがって、日本のマーケットで通用すると言うことは世界のマーケットで通用することになる。逆に海外で使って頂いて、その評判が良くて、日本で使って頂けるというケースもあるので100%そうだとは言い切れませんが」と国内市場への思いを述べた。

加工の難しさ

 Vertex55XⅢは受注増が期待できるマシン
Vertex55XⅢは受注増が期待できるマシン
 現在、ハイブリッドマシンも増加傾向にある。大電流を流して難削材を除去してその後に切削加工をする画期的なマシンも出てきた。工作機械の技術も進化し、工程集約は当たり前の時代になった。自らを“元自動車屋”と呼ぶ奥田社長は過去に経験した加工の難しさについて、「必ずしも工程集約のためワンチャックで行うということが良いとは思っていないんです。場合によっては工程分割をしたほうが良いケースもあるんですね。これはつくるワークの違いからくるものと思うのですが、大体が削るとひずむ。せっかくワンチャックで仕上げたってアンクランプをしたらひずんでしまうというケースだってある。荒取り加工である程度応力を解放し、仕上げ機に乗せて加工をすると精度が出るケースもあるし、あまり関係のないケースもあるんです。同じ材料でもロットによって全然違う。カムシャフトでもそうでした。あるロットは全然曲がらないのに、あるロットはぐーっと曲がる。当時はいつも応力解放との戦いでしたよ」と当時を振り返る。

大きな内製用のマシン
大きな内製用のマシン
 さて、顧客が多岐にわたる場合、難しいのは開発だ。様々な要望を受け入れるにも限界があるだろう。開発がある程度軌道に乗ったところで、追加の要望が入ってくるのは当たり前。そうした場合の対応はどうしているのか。

 「新しい機械をお客様に持って行くと、“これもできるならアレもできるじゃないか”と、閃いたように新たな要望が出てくる場合がある。そこでハッとするのは、ああ、こういうニーズもあったのか、ということ。われわれが見えていなかったニーズがあるんです。新しい機械をつくるとお客様自身が気付いてなかった使い方がお客様から出てくる。こうした声は貴重であり、三井の機械づくりの糧になります。開発日程が厳しい時もありますが、われわれの魅力、特長は、“つくりへのこだわり”と“時代に応じた味付け”と、“カスタマイズ”ですからね」(奥田社長)

X,Yがいかに直角に出来ているかをみる
X,Yがいかに直角に出来ているかをみる
 このカスタマイズこそ、同社のマシンつくりにおいて最大の魅力が詰まっている。例えば昨年9月にシカゴで開催されたIMTS2016では、Additive Hybrid仕様の『Vertex55XⅡ』を展示した。この後、このマシンは大手ジェットエンジンメーカーのもとへ。現在も改良を加えているとのことだ。奥田社長は期待を込めて、「アディティブも材料もどんどん進化していくだろうと思います。そして広範囲で使われるようになるでしょう。ただ、仕上げ加工は絶対必要なので、アディティブで加工をしたあと、その仕上げもわれわれの機械でやっていただけるところがもっと増えてくるといいなと思っています」と笑った。

 現在、好調な工作機械事業。同社のプライベートショー『MTF』も年々来場者数は増加し、受注額もリーマンショック前にほぼ匹敵しているという。中期経営計画では外需の獲得に注力したいという奥田社長。狙いはアメリカの航空機産業だ。

 「大きなプロジェクトが控えているようなので、ここはしっかり食らいついて、注文をとっていきたいですね」(奥田社長)

気の遠くなるような精度への挑戦と徹底したつくり込み

徹底した温度管理
徹底した温度管理
 究極の精度を求める本社工場には、つくり込みの凄みが詰まっている。

 精機棟は幅140m、奥行き100mの全館完全空調している工場だ。空調は設定温度に対して±0.4°の制御ができ、垂直方向水平方向共に温度差がほとんどない。頑丈な基礎は約3mおきに合計1700本のパイルと平均1mのコンクリートを入れて強固にしており、建物部分と機械組立部分の基礎が完全に分離しているため、クレーンの振動が機械組立に影響しない。

1938年に完成した日本出最初の精密切削加工機
1938年に完成した日本出最初の精密切削加工機
 また、外気の流入は、組立工場内の温度が変化する原因となるため、出荷室を設けており、夏場に機械が結露して錆びるのを防いでいる。このように徹底した環境下のもとで同社のマシンはつくられているのだが、同社は、わが国で最初の精密切削加工機を製造した企業でもある。日本で最初の精密ジグ中ぐり盤を昭和13(1938)年に完成し、この国産第一号機は日本電気の玉川工場に納入している。

 高精度な工作機械をつくるためには、高精度な測定が必要――ということは、1µmの精度を正確に測るための測定器は0.1µmの精度が要求されるということ。同社はもともと測定器の生産からスタートした会社であり、ブロックゲージやマイクロメータからはじまり、スタンダードスケール等の“基準”をつくり続けてきた。驚くことは、戦前から空調のしっかりした部屋を設置していたことだ。

精密測定室について説明する営業本部の下村主査
精密測定室について説明する営業本部の下村主査
 精密測定室を案内してくれた同社の営業本部 主査 下村栄司氏は、「現在の精密測定室は、恒温工場の中にさらに建物をつくったような構造になっており、温度の安定性がこの工場の中で最も高い20℃±0.1℃に保たれています。この温度を制御するというのは大変な技術です。振動も完全に遮断しており、ここも特別な基礎をしています。周りから完全に遮断され、0.1µmをきちんと測れる部屋となっています」と説明をしてくれた。同社の精度への追求は、いつの時代を経ても変わることがない。


大手航空機メーカーに出荷される
大手航空機メーカーに出荷される
 同社では、なんと全マシニングセンタの出荷台数の7割が5軸加工機だという。これを下支えしているのは人気の『VERTEX(バーテックス)』。ちなみに今回、詳細は書くことができないが、ジェットエンジンの部品をバリバリ削るテスト結果も良く、今後の受注増が期待できるとのこと。


旋削ができるテーブルが付いている。大きなワークを精度良く回すための技術がキモ!
旋削ができるテーブルが付いている。大きなワークを精度良く回すための技術がキモ!
 奥田社長キモ入りである、精度が厳しい『PJ』を通り過ぎ、大手航空機メーカーへ出荷される『HU80A-5X』を横目歩くと、今度はX、Yがいかに直角に出来ているかを真剣に確認する2人に遭遇した。このマシンは、エンドミルでボーリング加工並の精度を求めるユーザーのためのものらしい。顧客からの厳しい要望に応えるためにはこうした人材の力も重要だ。

 次に拝見したのは、これも航空機メーカー仕様のマシン。見た目は5軸機だが旋削ができるテーブルが付いている。ただ回すだけなら精度は不要だが、大きなワークを回すとどうしても熱が出る。このあたりを精度良く回すための同社ならではの技術があった。もちろんどういう技術が詰まっているのかは秘密である。

貴重なショット。同社で1番長いタイプのねじ研削盤のオーバーホール。きさげをし直して新品同様に顧客に収める
貴重なショット。同社で1番長いタイプのねじ研削盤のオーバーホール。きさげをし直して新品同様に顧客に収める
 この日、貴重なものを見学させていただいた。同社で1番長いタイプのねじ研削盤のオーバーホールだ。約20年も使われていたという。大事に使われていた機械に、再度きさげをし直し、もう一度、命を吹き込む。もちろん、NCも最新のものを付けて機能的にもバージョンアップし、新品同様にして顧客に収めるとのこと。“最後までマシンの責任を持つ”、という同社の姿勢を見ることができた。顧客からの信頼が厚いのも分かる。

 ところで、同社の工場はものすごく環境が良いが、顧客の製造現場の環境が同社と同等とは限らない。そこにもまた、マザーマシンをつくり込む難しさがある。そういったことを包括的に考えながら、究極の精度を追い求めている同社の製造現場には圧倒されるものがあった。

 ギターと鉄道模型が趣味という奥田社長は、「いつまでも変わらない“つくりへのこだわり”を持ちつつ、時代の変化に合わせた機械つくりをやって参ります。今後、魅力ある新製品も定期的に出して参りますので、ぜひともご期待ください」としめくくった。

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