三菱日立ツール 菊池社長に聞く「金型業界への貢献」

 “MOLDINO(モルディノ) ブランド”を立ち上げた三菱日立ツールは、金型加工分野向け超硬工具に軸足を置く事業戦略を掲げて世界に展開を進めている。来年は魚津工場再稼働の実行を発表するなど生産拠点も活発化する中、本年4月、新社長に菊池 仁氏が就任した。三菱日立ツールを率いて約半年が経過した今、菊池社長に、ものづくりへの思い、営業方針、取り組みと未来像についてお話しを伺った。

世界一高価な工具が売れる理由

常にお客様に寄り添うメーカーでありたいと話す
常にお客様に寄り添うメーカーでありたいと話す
 ―菊池社長は三菱マテリアルの工具事業出身です。三菱マテリアルは2014年に日立ツールの株式を51%取得し、2015年には三菱マテリアルの連結子会社となりました。これに併せて社名を三菱日立ツールに変更し、現在、貴社ブランドである“MOLDINO”も浸透しています。就任後のご感想をお聞かせ下さい。
 菊池 日立ツールは様々な工具や素材に注力しながらも、選択と集中をしてきた。三菱日立ツールとなった現在、“MOLDINO ブランド”で示している通り、金型工具に特化し、金型業界とともに歩んでいくんだ、という強い姿勢を表しています。前社長である増田相談役の戦略や方針は変わることはないので、それをベースにし着々と歩んでいきたい。
 ―本年4月には金型向けの戦略を実行に移すために“金型戦略室”を東京に設置し、実際に金型を貴社の工具で製作して展示会で出展し、大きな反響を呼びました。
 菊池 “金型づくりプロジェクト”を立ち上げ、実際に金型を弊社の工具で製作したのですが、その時、“気づき”があった。切削加工がわれわれ工具メーカーからの視点と、金型メーカーの視点は必ずしも一致しないなど、切削工具メーカーとして学ぶべき点が豊富にあったことに気づいたのです。技術や開発は基礎にあるものなので、今回の気づきを今後も長期に亘り活かしていかなければならない、と感じています。 
今年のメカトロテックジャパンでもMOLDINOブランドの存在感を示していた
今年のメカトロテックジャパンでもMOLDINOブランドの存在感を示していた
 ―今年のINTERMOLDでは、来場されたユーザーからの意見を求めるため、金型づくりプロジェクトで製作した金型を展示していました。そして、10月に開催されたメカトロテックジャパンでも展示し、大成功でした。
 菊池 メカトロテックジャパンでは、金型づくりに対する課題解決への道標になればとの思いから、金型づくりプロジェクトがひとつのソリューションとして提案型展示を行いました。高硬度の材料でも5軸加工機で加工をすれば、ワンチャックで粗から仕上げまで加工ができます。段取レスが実現すれば工程を短縮するうえ、弊社の工具を活用することにより、精度はもちろん面品位も極めて良いことがお分かりになると思います。こうした点を、弊社ブースに足を運んで下さった皆様は高く評価してくださいました。
 ―貴社は世界一高価な工具を製造販売していますが、それでも世界中から必要とされ、売れています。魅力はどういう点にあると思われますか。
 菊池 中国メーカーが力をつけていますが、世界の熾烈な競争に勝つためには、フェラーリのように需要は限られているかもしれないが、こだわりがあり、常にトップクラスを目指している層に対して確固たる地位を築いていくことだと考えています。規模よりも質を追い求めていく。金型に求められる精度は非常に厳しいので、その分野に貢献するためには、技術を高めていくしかないでしょう。製造ベースは国内の成田工場や野洲工場が主体なので、値段を安くして、という価格ありきの話はできません。収益を大切にしながら、安定した成長を目指しています。価格競争で徹底的にやるなどの発想はありません。
 ―もし、「なんでもいいから安いのちょうだい!」 と言われたら?
 菊池 得意じゃありません(笑)
 ―加工工程を削減し、加工費全体を削減するために開発された工具が豊富にあることは貴社の強みです。
 菊池 工場を管理している人からみると、工具費は常に発生しているので、目立ちます。目障りな数字ですから、単に工具費用を下げたい思いもあるでしょう。しかし一般的には工具費が占める割合は2~3%。加工費全体を見たときに、三菱日立ツールの工具を使えば、加工にかかる費用が大幅に削減され、工程も短縮されるので生産効率も経済効果も上がります。
 ―貴社は品質や性能の安定さにおいて評価が高く、夜間の自動化でも安心して加工ができます。
 菊池 品質や性能の安定さ、には自信があります。加工現場で活躍されている皆様がそこに評価のポイントを見つけて下さったことは嬉しい。われわれはそこに注力しています。
 ―MOLDINOブランドもどんどん浸透されてきました。
 菊池 弊社の営業部隊は大人数で構成しておりませんが、その分、一人ひとりのフットワークが軽く、他メーカーより、すばしっこいところも優位性のひとつ。常にお客様に寄り添うメーカーでありたいと思っています。
 ―貴社では営業部隊が加工現場の声をリサーチしているのでしょうか。
 菊池 技術部隊が現場に行っています。組織が大きくなると、お客様のところに行くのは営業の仕事であるという感覚があり、分業にしがちですが、弊社は開発担当が動き回って顧客の要望をリサーチし、製品開発に活かしています。

高性能かつ高品質なメード・イン・ジャパンへのこだわり

 ―国内と海外の売上げ比率について教えて下さい。
 菊池 昨年度は国内50%、海外50%と半々になりました。
 ―今後の海外展開についてのお考えは?
 菊池 海外のほとんどがヨーロッパと中国で占めておりますが、他拠点も三菱マテリアルの販売組織から経由して売れるようになり、現在、アメリカ、東南アジアがスピードを上げて増加傾向にあります。弊社はものづくりの会社なので、地道にやるしかありません。イメージ的には、点ができて、それが線になって線がだんだん太くなっていく、という感覚ですが、地道ながらもスピード感をもって、着実に実行できるかが今後、成長の鍵となる。“金型工具は三菱日立ツール=MOLDINO”、と、加工業界で活躍している皆様の頭にパッと直感的に浮かぶように努力をしていきます。
 ―2019年度は長期的な視点に立ち、設備投資意欲が積極的な印象があります。世界的な同時不況のリーマンショック後に休止していた魚津工場を来年の秋には再開・再稼働すると発表していますが、意気込みはいかがでしょうか。
 菊池 ここ数年、伸長したこともあり、3~4年かけて設備投資をしました。能力を増強している今になって、製造業を取り巻く環境に先行き不安感が漂っていますが、立ち上がる時が必ず来ます。魚津工場の再稼働においては若干調節をするかもしれませんが、自動化を含んだ品質向上や安全性向上のための投資は手を緩めません。費やした瞬間は、すぐにお金にはなりませんが、非常に重要なことであり、将来の結果に必ず結びつくと考えています。今後とも、ものづくりの基盤を支える工具メーカーとして高性能かつ高品質なメード・イン・ジャパンにこだわっていきたい。
 ―ありがとうございました。

(聞き手・文・写真=那須直美)

moldino_banner

 

 

intermole2024_大阪