「新しい世界が待っている」 ~日本機械工具工業会が平成30年度定時総会並びに表彰式を開く~

 日本機械工具工業会(会長=牛島 望氏 住友電気工業専務)が、6月6日、都内のアーバンネット大手町ビル LEVEL XXⅠ東京會舘で平成30年度定時総会及び表彰式を開催した。

 総会では、役員の交代の件、新規入会会員の紹介、平成30年度「生悦住賞」並びに「新庄(陰徳の士)賞」の受賞者発表、平成30年度生産額見通し、総務委員会、国際委員会、技術委員会、環境委員会からそれぞれ報告があった。その後、表彰式が行われた。

 平成30年度生悦住賞並びに新庄賞(陰徳の士)受賞者は以下の通り。

●平成30年度生悦住賞
・倉持 健氏〈元高周波精密(株)〉
・森 良克氏〈住友電機工業(株)〉
●平成30年度新庄(陰徳の士)賞
・佐藤 健氏〈(株)栄工舎〉
・坂 美佐子氏〈東海合金工業(株)〉
・杉原 勉氏〈(株)畑滝製作所〉
・栢下雅士氏〈マコトロイ工業(株)〉
・黒石 清氏〈山本精工(株)〉

「新ビジネスモデルの創成」 牛島会長

あいさつする牛島会長
あいさつする牛島会長
 懇親会で牛島会長は「スイスは高級時計メーカーが多く、その加工が面白い。ダイヤモンドでリングを削り、最後はタップでリューズの穴を開けるというところを見学したのだが、切粉が18金だった。これが美しいとぐろを巻いて出てくるところを拝見し、感動した。純金のリングに文字盤が宝石でできている。エメラルドを非常に緻密な方法でスライスして貼り付けるというようなことだった。スイスのメーカーがスイス製にこだわるなと感じたことは、工作機械やコーティングの設備もスイス製の設備ばかりだったこと。設備の色がスイスの国旗の色、赤と白。これに統一されているなど、凄いものを見学できた。」とスイスの時計メーカーを見学した感想を述べたあと、近年話題になっている自動化、電動化を含めた自動車の未来像について触れた。

 牛島会長は、「新しい世界が待っている。2050年くらいになると、自動車は動く蓄電池になっていると想像している。万が一停電になっても、自動車が給電し、このような機構に、再生エネルギー等の安定調達と歩調を合わせるように自動車そのものが、われわれの生活を担保するようなバッテリーになる可能性があるのではないかと個人的には思っている。また、海外の某タイヤメーカーはタイヤにセンサーを埋め込んで、走行距離や走行による負荷をビックデータにして、タイヤそのものにどれだけの負荷がかかっていくか等、かなり検知できるようになっているようだ。したがって将来は、使用状況によって課金するといったビジネスモデルを検討されている、という噂もある。」と、自動車産業のトレンドについて述べた。

 切削工具の未来像については、「高額な工具は、センサーが付いて、使用状況によってお客さまに代金を頂くといったビジネスのモデルも、将来は出てくるかもしれないと個人的には感じているが、直近の話ではなくまだまだ先の話。現状は従来どおりのビジネスモデルでわれわれは戦っていかなければならない。従来の延長線上での工具の開発とともに、将来を見据えた上でのセンサー等にも注力していかなければならないと思っている。」と見解を示した。

「新しい潮流“CASE”の中で大きな変化が」 経産省 片岡産業機械課長

片岡 経産省 産業機械課長
片岡 経産省 産業機械課長
 来賓を代表して、片岡隆一 経済産業省製造産業局産業機械課課長が、「われわれも自動車新時代戦略会議を立ち上げて今夏には取りまとめることになっている。現在、“CASE”という新しい潮流がある。(CASE=「C」コネクティビティー〈繋がる〉、「A」オートノマス〈自動運行〉、「S」シェア〈共有〉やサービス、「E」EV化〈電動化〉)。この動きがものすごい勢いで広がるかどうか、そのスピードについては様々な議論があるが着実に進んでいくだろう。この潮流は、世界中のものづくりとサービスや、ネットとリアルの社会バランスをものすごい勢いで変え得る力を内在的には秘めているように思う。中国は3年前に『中国製造2025』という政策を打ち出した。次世代のIT産業、NC工作機械、ロボットや次世代自動車等を外国の資本や技術の力を借りながらも国産化していくという政策を3年ほど前の2015年5月に打ち出したが、実は本質はそこではなくて、その1年前の2014年4月に打ち出した『インターネットプラス』のほうが政策だと仰る方もいる。『インターネットプラス』という政策の中で2番目に上げられているものに、実は“シェアリングマニュファクチャリング”、日本語に直すと“共同製造”である。4月の上旬に工作機械の見本市が上海であり、そこで私は5軸の工作機械を作る中国のベンチャー企業を見学した。おそらくサーモを含めた日本製の基幹部品が入った上で作られているかと思うが、5軸という貿易管理上の対象になっているはずのものが、中国で作られている。こちらが細かい質問をする前から言われたのは、“日米欧の力は借りておりません”。つまり誰かを唆して技術流出させたわけではないという、まず模範解答があった上で、自分たちの資本を出した誰かという問いに“アリババだ”と応えた。確かに後で調べると、アリババは創業者たちがお金を得て、それをベンチャーキャピタルとして投資をされている。つまり中国のユニコーン企業の3分の1はそのアリババの、あるいは“BATJ”のベンチャーファンドがつくり出しているとのことだった。“いつからやっているのですか?”と尋ねると、“3年前だ”と返答があった。ここで勘のいい方は全てお分かりになると思うが、まさに中国は2015年5月に出した『中国製造2025』がある。半導体製造装置までを全部内製化すると言っている。この政策がランナップされたと同時に、恐らくアリババからの出資を得て、借り物とはいえ5軸の工作機械を作ってしまった。」と上海で開催された工作機械見本市での出来事を話した。

 「もしかしたら、共同製造、つまり需要と供給の上でマッチングしたサービス、あるいは使用に応じて課金する海外タイヤメーカーの例を考えると、将来的には工具もそういう形になるかもしれない。ひょっとしたら、工作機械も売り切るのではなくて、機械を貸して、商売を持ってきてマッチングをし、そこからネットのデジタルプラットのフォーマーが料金を得ていくようになってしまえば、工作機械や工具、周辺機器業界は、厳しいビジネスモデルのところになっていくかもしれない。さらに中国から追い上げられて、中国製で立派なものが安くできているとなれば、厳しくなる。日本の自動車産業は製造業の一本足としての非常に大きな地位を占めるが、その自動車が“CASE”の流れの中で大きく変化をしている。」と危機感を示し、最後に、「足元の状況が好調である今だからこそ、将来の大きな変化に備えた技術革新への対応をお願いしたい。」と声援を送った。

 乾杯の発声は中村伸一副会長(三菱マテリアル常務)が行った。宴もたけなわの頃、石川則男副会長(オースジー社長)が中締めを行い散会した。

 

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